山梨県において、離山と双璧をなす難峰、坊主山。
いよいよ挑戦する時間を得た。しばらくハードな山から遠ざかっており、どこまで健闘できるか。
坊主山は、記録に上がっているものとして、比較的安全に上から攻めるも、黄蓮谷を経由し下から攻めるも、一筋縄ではいかない。
中には日帰りの記録もあるが、DJF氏を筆頭に只者ではない猛者ばかり。
登山体系で、最も容易に頂上を踏めるような記載がある、北坊主沢を経由することにした。
この北坊主沢、アイスクライミングの記録は散見されるものの、無雪期では発見できない。
僅かであるが冒険的な要素も手伝い、私のスタイルと能力から、これが最適と思われた。
スタートは、日向山の矢立石登山口。
幕営、登攀具のセットが、肩に重くのしかかる。
廃林道をぼちぼちと行く。
ビランジでしょうか。オオビランジとの違いは私には分からない。
林道歩きも余り苦にならない。
トンネル出口はいいけれど、入口は何年もすれば埋まってしまうかも?
終点からサクッと下降して沢へ降り立つ。
2人パーティーがいらして、鞍掛沢から乗越沢ときて日向山への日帰りだそうだ。
先行して進む。
ついつい、滝の写真を撮ってしまう。
今回の左壁は、かなり良いフリクションで有難い。
ワイヤーのある梯子滝も、水流のぬめりに不用意に近づかなければ、安心して通過。
一昨年には倒木が景観を損ねていたが、下に移動してすっきりしていた。
今回は巻き道利用であっさりと通過した。
ここのトラバースは前回と違うラインで進んだ。楽に通過できた。
噴水滝のズーム。ここだけ切り取ると面白い。
日が余り差さないので暑くないのは良いが、水の色がちょっと残念だ。
この岩が右手に見えると、黄蓮谷の出合が近い。
ビランジが多くて歓迎された気分だ。
出合で休憩した。本谷からは未知であり、ここから先はどうなるか。
さあ現れました。圧倒的な存在感の坊主!!
本当に大丈夫かな・・・。
本谷1つ目の滝。滝壺が深くて、へつりつつ右を適当に登ったと思う。
吸い込まれるような深緑。イワナの結構な良型が走る。
滑もあって癒し系。水流はぬめりで登れないけど・・・。
北東壁でしょうか。凄い威圧感!!
左を気にしていると、北坊主沢の手前にスラブ。これでも中々のスケール。
右を安全に通過できたと思う。記憶に残らないので、簡単だったのだろう。
変わらない滑。本谷は癒しでいいですね、と改めて。
そして、到着!北坊主沢の出合。
下は巨岩ですっきりしないが、上部からは一枚岩みたいなスラブ滝。
ここからは未知の領域。気を引き締めて・・・。
70m滑滝は左右どちらも行けるとのことで、現地で判断すると、まずは右岸を行くのが良さそう。
水流も試すが、何とも登りにくいし、ぬめりで半端ないので、早々に右岸に戻る。
草付と灌木で右岸は登りやすく助かる。
70m滑を横から眺める。水流なんて話にならないでしょう。
木は疎らで、獣道がかなり明瞭で安全。
沢から少し離れると、奥もスラブの岩が幾つかあった。
多分垂直40mとされる滝が見えている。でも、垂直までの傾斜ではない。それとも、上にまだあるのだろうか。
だが、とにかく絶望的な顔をしており、付近を登るなど無謀もいいところ。
北坊主沢、中々の傾斜がお分かりいただけるだろうか。
手前で左岸に渡る。横断できる箇所は2カ所程で、安全な所は1つのみと限られる。
滑ったら、かなり下までサヨナラで、ただことでは済まないが、これまで危険な感じは余りない。
ルンゼを登ってみるが、これも上部に岩があって、右の小尾根に逃げて、少し大きく巻く。
巻いた先は、結構な落差の滝!
ビビったというのもあるけれど、写真の部分だけで50mはあるのでないのか?
登山体系では、40m滝以降、難しい所はないなどとあるが、これ大丈夫なの!?
遠目で、下部は左壁が行けそう。最上部の岩は処理が厳しそうであり、そんなところで身動き取れなくなったらゾッとする。
時間的な余裕はあるので、偵察も含めて左岸を巻けるか試してみる。
小さく巻かないと、岸壁上に出てしまい、沢へ復帰できない可能性もあるので、なるべく左寄りを行く。だが、ルンゼが恐ろしい深さで左に切れ込んでおり、どんどん右に追いやられる上、崩壊地点もあったり、クライムダウンも困難な傾斜になってきたので、撤退する。右岸も巻けるのかどうか。
ひとまず、先ほどの滝へ戻って大休止。運動不足がたたって、とても疲れた。
メンタルのリセットも必要で、ここでガスを沸かして食事休憩。前日の家業の疲労に寝不足もたたって、うたた寝してしまい、1時間は贅沢に費やしてしまっていた。
さて、困った。いよいよ、大局の判断。敗退か直登前進するしか選択肢が無い。
ひとまず、空身でどんな感じか偵察することにした。
取付き前の、ぬめりで酷いワンポイントを通過して・・・。ここがあったお蔭で巻くなどいう軟派な気持ちが出てしまっていたのだ。
取り付いてみると、左壁は快適であり、空身であれば概ね気持ちよく登れた。
中間部は水流も試して登れたラインもあったが、荷物がある場合は無理だ。
時間を掛けて、ホールドとラインをしっかりチェック。
中間やや上部には、残置ハーケンにヌンチャクがかかっていた。
これを敗退用とするなど、当然信用ならないが。
残すところ10mほど、最上部の凹角がいやらしい。下段3~4m程の箇所が、ホールドが微妙でおまけにしっかりぬめる。
ここには潰れたハーケンがあった。確かに、ハーケン打ってアブミで処理すれば簡単だろう。
だが、もうここまで来たからには、フリーで突破してやる気持ちになっていた。
空身ではできる幾つかのムーブも、あの重い荷物を背負ってとなると、できなくなるので、一番時間をかけた。
どうにか、最上部からもザックを背負っていたとしても、クライムダウンは可能だと確信が持てるまでになった。
そして決行。下部はリハーサル通り順調。休憩しながら、確実に。
懸念の凹角部分は、想像以上に厳しかったが、抜けられた。
だが、右ふくらはぎに鈍い痛みと強い違和感。これはまずいかもと、ペースは著しくダウン。
さっきの滝を登っている最中は、カメラはザックに入れていたので、写真が無いのが残念だ。
暗くなっていることもあり、油断はまだまだできない。
その先、10分程は非常に警戒していたが、どうやら大きい滝らしい滝が無い。
水流も少なくなってきたので、たっぷり水を補給。
快適ではないが、一応テント張れそうな場所もある雰囲気になってきた。
花に元気をもらって、坊主山まで行こうと決める。
烏帽子中尾根の岸壁を振り返って、今日の展望は終了だ。
右の壁はとんでもない高さで、おいそれと懸垂はできない様子だったので、巻きであのまま突っ込んでいても敗退は必至だっただろう。左はやや穏やかなので、ルートによってはいけるのかも。
間も無く水は切れ、左が草付でしばらく歩きやすかったが、暗くなってしまいヘッデン利用。
最上部はシャクナゲ藪に少し捕まったが、大したことが無く、ザッテルよりも坊主山直下に出た。
これで、核心は越えた!!安眠できる。
坊主山の頂上は写真で見た通り、大岩があって砂礫のオアシス。
早速、テントを張って食事して祝杯を挙げる。
星が綺麗に見えて、景色も悪くない。至高のひととき・・・。
- コースタイム
矢立岩登山口(5:40) → 入渓(7:15) → 鞍掛沢出合(7:40) → 黄蓮谷出合(9:45) → 北坊主沢出合(11:30) → 苦労した滝下(13:25)休憩含めて15:50分発 → 滝上(17:30)→ 坊主山(18:10)